09年の8月6日が過ぎて



 有休の日だったので、広島原爆慰霊祭を見た昨日。テレビの映像ではほとんど音が拾われていないが、こうしてライヴの映像を視聴するとセミの声が随分大きい。
 象徴的には、米国にオバマ大統領がいるとすれば、広島には秋葉市長がいる。
 ここで提言されていることは、夢のような提言だろうか?
 僕はこれでも、自分自身随分現実主義的になってしまったと思って、ときに自己嫌悪の感情に襲われるのだけれど、秋葉市長の宣言をシニカルに見るには、まだ夢に対する憧れが強すぎる。

d0134515_21321032.jpg

 そしてこのマンガだ。不朽の名作。こうの史代の『夕凪の街 桜の国』。
 内容については改めて紹介することもあるまい、と。もしも良かったら過去に自分で書いた記事を参照していただければ。2004年11月27日の日記(拙HPより転載)
 あるいは、解説・詳細に関しては折り紙つきといっていい、紙屋研究所のサイト。

 この広島出身のこうの史代という漫画家は、いわゆる「漫画」の歴史的な枠組みにしっかりと根を張りながら、いとも易々と、漫画が今まで表現の中で表現しきれずに過剰になったり、不足のままであったりしたところ(部分)を乗り越えてしまった。それだけの内的蓄積を持つ日本漫画界の財産のような存在であることを、この作品で一般的な人びとにたちどころに知らしめたと思う。05年の彗星のような登場のあり方だった。その後のこうの作品のクオリティも明らかに他の追随を許さず、群を抜いている。(時代性を抜いて、純粋に質だけを問えば間違いなくそう断言できる)。

 「夕凪の街」におけるグウの音も出ない説得力ある告発も、その曰く言いがたい掻きむしられるような無念の気持ちが読み手の心情にあまりにも「確か」に響くがゆえに、現代に舞台を移して(正確には昭和末期と現在だけれども)、その「桜の国」二部作においての「夕凪」の主人公の姪を主役に据えた被爆者二世の物語が、被爆者の無念な思いを見事に昇華し、生きるものたちに生きているということ、そして生まれいでたということの意味に祝福を与える構成を、高い説得力を持って描ききれたことは、漫画読みとしても実に画期的なことだった。僕は今でもこの漫画を読むときは周囲の音を極力消してこの漫画の世界に入っていく。何度読んでも目頭が熱くなる。

 この漫画には本当に普通の人しか出てこない。普通の、悪くない、本当に普通の人たち。あえていえば、人よりも少しばかり、繊細で優しい人たち。だから、運命のような原爆は「夕凪の街」の主人公、なかんずく主人公とかかわりを持つ人たちにとって、自分たちが被害者であるにもかかわらず、自分自身が加害者のような思いを抱かせる。あれが落ちた後に「助けにくるよ」といって、そのままかなわなかった約束。死体の山への恐怖と嫌悪から投げた瓦礫。腐乱が激しくない死体から手に入れた下駄。それらのひとつひとつが。それが自分の罪びとしての行いであったかのように主人公の心の内奥に潜ませる。その行為の記憶が想起するとき、恐るべき自責の念として主人公を襲う。読む側の人間はそこに彼女の二重被害を見る。それは被爆二世の問題につながる現在の主人公たちにも重なる。人びとの認識に関する犠牲者として。。。

 こうの史代の怒りと祈りは、「桜の国」のラストに向かって自分の父と母を「確かに選んで生まれてきた」という文学的な気づきへ運び込むことで、不条理な死をも救済せんとする。もしかしたら、不条理な死も不条理な生も無いと。その難しい認識へ。そのように思うことが出来るのはそれに気づいた人間なのである、というかの如く。だからこそ、それは本当の「ドラマ」となる。これだけのドラマを読んでしまうと、この作品に匹敵するだけの、人が創作するドラマはどれだけあるのだろうか?と思ってしまう。
 それは、とりあえず僕が文学を知らず、ドラマを知らないだけかもしれないが。。。

 秋葉市長の平和宣言から随分遠い話になってしまった。ただ、「オバマ」と「マジョリティ」を掛け合わせた造語を作った秋葉市長だが、マジョリティの無念を汲んで、灯篭流しをしてくれるような漫画がここにあった、それが1968年生まれの作家であったということは日本の文化生産として、世界に向けてさえ誇っていい気がする。
 願わくば、オバマ大統領もこの漫画を読んでもらえないだろうか。(半分くらい本気です)。ただ、英語版では彼女の絵柄と同じだけの柔らかな繊細さをいわゆる「吹き出し」の中にどれだけ翻訳された言葉を埋められるのか不安もありますが。。。(レビューを見る限り、特に翻訳に問題はなさそうです)。

Town of Evening Calm, Country of Cherry Blossoms

Fumiyo Kouno / Last Gasp of San Francisco


[PR]

by ripit-5 | 2009-08-07 22:06 | 社会