2題
今は無きマンチェスターはファクトリー・レーベルの総帥だった、トニー・ウィルソンが亡くなった。
ジョイ・ディヴィジョンのマイ・スペースからのお知らせで知った。
http://news.sky.com/skynews/article/030100-127950600.html
最近、某雑誌で立ち読みしたドゥルッティ・コラムのヴィニ・ライリーのインタビューで、「親友のアンソニー・ウィルソンを楽しませる音楽を作りたかった。彼は癌で、本当に体調が悪くてね」という話をしていて、トニー・ウィルソンの本名は確かアンソニーではなかったか?もしや彼?と不安な感じを持っていたので、この事実にはやはり悲しみを痛切に感じる。
トニー・ウィルソンといえば、多くを知らなくとも、映画『24アワー・パーティ・ピープル』の主人公である、ということで、あああの彼か、と気づく人も多いのではないかと。
いわば気障な音楽好きなミドルクラスのお調子者のように映画では描かれていたが、オリジナル・パンクに接したマンチェスター勢でポストパンクを率いたファクトリー・レーベルの功績はあの70年代末から80年代前半、語りつくせない。ジョイ・ディヴィジョン、ニュー・オーダー、ドゥルッティ・コラム、ア・サーティ・レィシオ、そしてハッピー・マンディズ。ピーター・サヴィルの素晴らしいアート・ワーク、マーティン・ハネットという斬新なプロデューサー。それら個性的な連中を率いたトニー・ウィルソン。ロンドンのジェフ・トラヴィス率いる「ラフ・トレード・レーベル」と並んで英国の2大インディ・レーベルの総帥だったのだ。
それにしても、英国の翳りある音楽の都・マンチェスター。あの時代を率いた人たち、気がつけば若死が多い。ここで数え上げたりはしないけれど、知っている人はすぐに多くの名前が浮かぶだろう。何ゆえに?という感に堪えない。
もう一人、すでにこの世の人ではない人物、ジョー・ストラマーの映画が近々公開される。その映画のマイ・スペースから流れるオムニバスミュージックが実に素晴らしい。
http://profile.myspace.com/index.cfm?fuseaction=user.viewprofilefriendid=167200414
ジョー・ストラマーの生真面目で冒険的な人生は考えるだけで胸が熱くなる。また、彼自身が行動的な人物というだけではなく、極めて自己反省的な人物であることも魅力だ。時々、そのバランスが普通の人よりもストレート過ぎたり、相互に矛盾があったりするけれど、基本的にはその生真面目振りが彼の年齢と共にする成長振りがうかがえて嬉しい。その過剰な自己反省も含めてアテチュードとしてのパンク・ロッカーだったんだな、と思う。以下、長いけれども、彼のインタビューから抜粋したい。(雑誌『DIG・No.19』から)
●あなたは、故意に自分のステイタスと特権を捨ててしまったという珍しいロック・スターですよね。
JS:一言で言えば、俺は、十分な学もなく、スポークスマンであるための十分な知識も情報も持っていない自分自身を責めるね。何も分かっちゃいない奴が、始終声高に語るってことは、それで、しばしば愚かなことを語るっていうのは危険なことだよ。「ヘイ、ヘイ!俺にマイクを渡せよ、皆聞けよ!」って喚きながら世界を廻ることが許されるほどの教養も知識も俺は持っていない。俺たちを取り囲む世界について歌う前に、首尾一貫した知識の鞄を持つべきだね。俺はその鞄を一杯にしたいし、俺の時間を、自分を高めることに使いたいし、俺自身に欠けている部分を埋め合わせることに使いたいね。これは大いなる幸せだよ。
彼はこのインタビューの後半でザ・クラッシュについて「システムを変えたいと思ったらそれに変わる策を用意すべきなんだよ。(略)クラッシュを爆破させたものはこういう混乱と、イデオロギー的な行き詰まりだろうね。俺たちは全てを言い放ったし、俺たちの社会にそぐわない最悪なものには唾を吐いた。だけど、俺たちは遠くには行けなかったし、提示すべき解決策を持つことは出来なかった」とも語っている。
僕はこの正直な述懐に切々とする。それでも、ジョー。僕はこの年になって、やっと『サンディニスタ!』の歌詞の意味が把握できるようになったんだよ。貴方たちは例えジョーが言うとおりであったとしても、後思春期にいた僕たちの100歩先ぐらいを見て歩いていたし、今あなたたちの言葉の意味のより深い意味が分かる。
映画サントラの、おそらくジョーの最後のバンド、メスカレロスであろうラストの楽曲の美しさ、BBCのインターナショナル・サーヴィスで音楽DJをやり、より幅広く国際色豊かな曲をかけていたというジョー。彼の音楽に対する飽くなき探究心は、社会的関心にもより広く、よりバランスよく広がっていくはずだったはず。「ロンドン・コーリング」で”核の冬”の恐怖を一節に入れていたジョー。今、東西冷戦の核恐怖ではなく、核の拡散と、そして環境汚染を前に、彼は生きていたら何を感じ、そしてどんな曲を着想するだろうか。
そんなことを思うのである。
PS。
クラッシュの始まり始まりの時期から彼らの音楽的嗜好のセンスの良さについては論を待たない。それはピストルズの推進力たるジョン・ライドン、グレン・マトロックしかりであったのだ。過去との断絶を強調したオリジナルパンクスたちは、実は独特の嗅覚の音楽ファンたちだったのだ。
トニー・ウィルソン↓
by ripit-5 | 2007-08-11 16:56 | 音楽(洋楽中心)