人気ブログランキング | 話題のタグを見る

加藤周一氏の講演

今や日本でも数少ない碩学、加藤周一さんの講演を聴きに行った。北大クラーク会館にて。かなり高齢であろうに、今でもかくしゃくとした人だなあと思っていたから、実際の加藤氏が明らかに高齢化が進行していることに正直驚いた。背中も大変曲がり、足元もかなり弱っていらっしゃる。声も張りが落ちたようだが、人間は全く外見では無い。その図抜けた分析力にすっかり舌を巻いた。繰り返しだけど、人間は全く外見ではない。頭と言うか、魂こそ美醜を決めると思った。

内容は「憲法9条の会」の立場から。

加藤氏は憲法9条は対外的な意味と対内的な意味があると言い、明日の講演(元医者の加藤氏は、明日は医療者憲法9条の会の講演に行く)は対内的憲法、今日は対外的な意味での憲法9条について話したいと前置きされた。

そして論旨の多くを北東アジアの今後の危機や脅威についてありえる可能性について話された。

その前に、前提として、9条改正論者と、「先の戦争はそんなに悪いことではなかった」という思いとは深いつながりがあると語っていた。

そして、9条問題の絡みで靖国問題にも触れ、例えば「日の丸・君が代」を外国は非難しない。非難するのは、自国に関することだ。つまり、先の戦争による被害国、中国・韓国にとって「日の丸」は自分たちの問題ではないが、靖国問題は自分たちの問題と捉えている。

で、論旨は今後ありえるのかどうかという北東アジア危機について。今騒がれている北朝鮮の行動は自分も含め、多くの人の関心に違いない。で、長距離弾道ミサイルのテポドン2号は失敗した。中距離ミサイルのノドンは日本海に着弾した。その結果、日本が騒ぐほど国際社会は脅威を感じているだろうか。核弾道を装丁してミサイルを発射すれば大変だろう。しかし、北にはその技術はないと言われる。仮に核弾道をつけて日本に着弾すればどうなるか。当然、日本は報復する。それが北のメリットになるか?全然ならない。場合によって北朝鮮は全滅する。もちろんそんなことは常識的に北は望んでいるわけはない。

ちょっと、自国中心の目から離れて、世界地図的な見方、鳥瞰図的に見てくださいと前置きされてそうおっしゃられた。
北の行動にいま一番神経質な態度をとったのが日本。しかし、中国はもちろん、ロシアも経済発展の中、戦争は望まない。アメリカの視野は中東に完全に向いていて、付き合い上、厳しいことを言っているが本音は6か国協議に任せたい。

それよりも、外交上日本が憲法9条を捨てさるときが北東アジアの一番の危機だ。日本は中国で儲けている。その意味で同じく日本で中国は儲けている。だから政府の考えは別かもしれないが、しかし中国の次代を担う若きエリート層、インテリ層は分からない。政府は彼らの意見を無視できないかもしれない。そのときは、本当に日本と今のように外交的距離がある状態では、一挙に緊張が高まるかもしれない。それは確実とは云わないが、可能性は否定できない。状況によって、緊張が高まるときというのは、一瞬にして高まる。

そして、緊急のとき一番日本が頼りにするのが米国だが、そのときが米国が日本を見放すときだろう。

(日本は今アメリカとのほとんど二国間外交状態だけれども)、中国は金輪際、一国だけとの付き合いと言うのは絶対にしない。なぜなら、これは加藤氏たち本人が1971年に周恩来首相に会って聞いた話らしいが、中国とソ連の関係が悪化したときがあった。その時、中国は先端産業をソ連に全面的に依存していたらしいのだが、極端な話、一日であっという間にソ連の先端技術者たちが打ち揃って母国に帰ってしまった。そのため、機械があっても操作できない。そんな苦い思い出があるため、中国は金輪際二国間関係は止めて、いろんな分野でいろんな国と付き合うようにしているらしい。
ー僕はこの話に一番深く打たれた。

後は質疑応答で最近のネットでの東アジアに対する感情的ナショナリズムの背景をどう考えるかという質問には、実に簡単。背景は日本人の流行癖。古くは「佐渡へ佐渡へと草木もなびく」最近では「みんなで渡れば怖くない」。特に新聞は半年ほど騒ぐ。一時学校のいじめが騒がれたことがあった。それはもう毎日いじめいじめ。それは良くないこと。だけど、半年経つといじめ報道はぴたりと止んだ。ところが現実はどうか。半年マスコミが騒いでいじめがなくなるか。現実には報道がとりあげなくなるほど劇的にいじめがなくなるわけがない。現実とはそういうもの。だから、そのような流行癖への対処は1年に1度でいい、その時々の流行を一つだけでも懐疑的に見て、それを徹底的に調べる。自分で調査してみて、自分で自分の答えを見つけ出す。暇な人はもっとやってもいいけど(笑)。そうして流されやすい自分たちの習性を考えて見たらどうだろうとおっしゃっていた。

繰り返しになるけれど、見た目は本当に老いた外見の加藤氏、さりながら、論旨は明快。将来への分析は鋭利。人の凄さは肉体とは別のものだとつくづく感じ入った次第です。
しかし、これがもしかしたら、あこがれ続けた人の最初にして最後の(遠くからの)対面ということになるのかもしれません


加藤周一氏の講演 _d0134515_21451197.jpg

by ripit-5 | 2006-07-21 21:25 | 911以後の世界に思うこと