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こうの史代 -この世界の片隅に(上)

う~む。参った。いつもこの人の作品に触れるたびに「参った。参りました」と舌を巻くのだが、この新作も淡々とした作風の中に凄さが垣間見える。
こうの史代さんのような女性の作家が、漫画家としての枠に限らずに、作家としていてくれることに謝謝、感謝。
まず相手にしてくれるわけがないですが、こんな作品を書く女性ならば、惚れてしまいます(笑)

実は一回目に読んだ時にはこりゃ路線としてますますマニアックというか、難しくなったなぁと思ったんです。わたし馬鹿よね。本当、鈍感です。
最初の話はつげ義春か?と思うような展開ですし、(そういえばこうの作品のオープングは相当唐突感があるのですが(例外は夕凪くらい)、それを物語の主人公は所与のものとして受け止めているのが恐い)さんさん録にもあった家事・炊事のデティールに懲り、そして舞台は戦前。考証も緻密で書き物や書かれたものは当時のものそのもの。
本編以前の伏線となる三作はペンタッチも変えているのがあったり、実験的な感じがして。
だけど、彼女の凄さはそれを実験的なままにせず、すべてが後に繋がる遠い伏線としてどんな一編一編もあること。

作品の舞台は広島県・呉市。本編では昭和18年の12月から主人公のすずさんが結婚する2月以後19年の各月という形で進んでいて。軍港・呉はこの後大空襲があったそうですし、勿論「夕凪の街~」の世界である20年8月は原爆投下。
今のところ、主人公のすずさんの実家は広島の干潟で働いている。

上巻・現在のところ、こうの氏作品の集大成のようであります。「さんさん録」「長い道」「夕凪・桜」「こっこさん」での実験(?)の集約された名人芸のようで、とっても淡々とした世界にふと人間が持つ深淵を垣間見せるような一瞬の怖さを予感させながら、またそれを上手くはぐらかすという手法が実に生きています。
う~ん。上手い説明が今のところ出来ません。ただ、こうの世界は女性だからこそかけるものであるのは間違いないし、またこれを書ける女性がいるということがもう本当に希少な価値。
何か、凄く教わります。これほど透明感があって、静かな日常に見える世界をユーモラスに描いているように見せていながら、ね。

だから、最初は一読しただけでは分からないことだらけだったんです。こうのさんの作品は一編一編がとても隙間があるようにみえて大変濃密で、物凄く良い意味で計算がなされてるので。

だから一回読んでMIXIのレビューを読んで、ああ!なるほどなるほど!とレビューアーの方々から教わりました。質の高い読者さんを持っていて、さすがこうのさん。幸せ者!

しかし、夫の周作はもちろん若いし、海軍の軍法会議(!)のロクジさん(なんだ?記録係かな?)ということで、下巻ではどうなるか。やはりこの作品の19年7月のようなラヴリーな(今どきこんな言い方はせん!)展開とは行かないだろうし、愛し始めた夫は戦地に赴くのか。あるいは軍法会議に係わる仕事ということであれば、何か重たいものを仕事として背負って秘めているかもしれない。そんな部分も今後の展開で見えてくるのか、言葉は悪いけども楽しみな・・・要素。いずれにしても、この「凪」のような小さな幸せがそのまま続くわけはないよ・・・ね。

作者さんのファンページでこうのさん自身、まだ着地点が見えてないということですから、もしかしたら中巻も考えられるもう少し長い連載になるのだろうか。なにしろ、いま連載の雑誌が店頭に並んでないので、次の単行本化を待つしかない。

声高な(すみません、文章ではオレみたいなヤツ)現代とちがって、静かに真実をさらりを出す女性。また女性ならではの逆の強さを教えてくれるこうのさん。相変わらずおおげさですが、平伏いたします。
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by ripit-5 | 2008-01-28 22:49 | こうの史代