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『この世界の片隅に』下巻感想(序)

 
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 というのは、まだまとまらず、でも何か書かずにはいられないという理由から。以下、現在の気分と印象発言のみです。今後上巻・中巻もあわせて読み返しながらもう少しだけでもキチンとした感想を書ければ、と思っています。

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 「この世界の片隅に」。ついに最終巻である。

 まず、書店でこの最新刊の表紙を見て意表を衝かれた。まぁ、防空頭巾姿とかも、ありきたり過ぎてなんだかナァと思ってはいたが、さすがにこんなに明るい表紙になるとは思わなかったよ。主人公すずの、幸福感に満ちた少女のような笑顔。内容との落差があるように見えて、じつは意外とそうではないのかもしれない。深読みしていけば。。。(もっときちんと読まないとね。)
 生よ。自然よ。すべての人々に満面の生の喜びの笑顔を。そう考えると、これは「祈り」のマンガにも思えてくる。(余りにもチンプな表現だが。)

 とにかく凄い。凄い作家だ。まさにここにおいてこうのさんはあの時代の何かがその身に憑いて、作品を書かせたが如くだ。とても一般的な感想でまとめられそうにない。真剣に感想を書こうと思ったら字数がいくらあっても足りない。。。作者のあとがきこそがあらゆる批評を超えて一番の読後感を伝えるんじゃないか?、と思っていたのだけれど。。。
 しかしネットを見て、MIXIなどのSNS、アマゾンなどのレビュー、あるいは一般ブログの感想や批評を読むとみんなどこか「そうそう」、と頷けることを書かれていて。いやあ、こうのさんは本当に素晴らしい読者に支えられている作家でもあるなぁと。また、そのような読者を掴む力量がある作家さんなのだと。
 その力量はここに至って、追随を許さない凄み、高みにあるような。(ほかのマンガ作品を知らずに書いているので正確ではないかもしれません。主観のみですみません。)

 ひとつだけ。主人公は絵やマンガを手遊び(てすさび)でよく描いている。描くことが自分の記憶のためである場合もあれば、人をひと時でも喜ばせ、助けるための力にもなっている。そんな描写がさりげなく何回か繰り返されている。3巻にはすずさんを立たせている大きなものが奪われてしまうのだけど、その奪われたときの無念、あきらめ切れない思いが感情の吐露、行動として現れる。それはストイックな描写を旨としているようなこうの作品としては珍しくストレートな描写だと思った。そしてそれはきっと、作者であるこうのさんのマンガ家として、そして絵を書く人としての強い感情移入があるような気がした。

 そういえば初期の「こっこさん」でも主人公の姉は絵を書くのが好きな人だった。あのモデルは実はこうのさん自身じゃないかと僕はうがっているのだけれど?

 いずれにしても『この世界~』は戦時下の日常を執拗に、社会の教科書資料のように淡々と描かれながらそこから思わず「漏れていく」部分にこそ、非日常の結果であり、戦闘兵ではない人々の真の悲劇が描かれているのだと思える。(ある意味で男たちも国家総動員の時代には戦闘兵でないといえる)。

 ただ、とはいえやはり、単なる悲劇に終わらせないようにする力学もこうの作品の真骨頂でもあると思います。

by ripit-5 | 2009-05-02 20:32 | こうの史代