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社会構造を変ええる可能性を考える(1)

 古い船には新しい水夫が 乗りこんでいくだろう
 古い船をいま動かせるのは 古い水夫じゃないだろう
 なぜなら古い水夫は知っているのさ 新しい海の怖さを 
(「イメージの詩」・吉田拓郎)

 CS朝日ニュースターの番組『ニュースの深層』に「現代の貧困」(ちくま書房)の著者、岩田正美日本女子大教授が出演した。
 総体として、いまの日本の一般庶民が安心して生きていくには、日本の新しい貧困の現実を見極め、新しい日本の社会保障制度を大胆に構築する必要を強く感じた。
 方向性を与えてくれて、何だか風通しが良い気分である。
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 まず司会者が貧困の定義を教授に聞いた。いまの日本に例えば飢餓や生死を分かつような事態が常態としてあるとは思えないのだが?と。
 それに対し、貧困の基準は基本的に社会が決めるもの、という答えであった。貧困とは社会の価値観である。確かに僕に言わせれば、明らかに日本はソマリアやスーダンのような飢餓と背中合わせ、命と背中合わせの貧困国ではない。
 しかし、先進国として、先進国の市民として一般的に常識的な生活水準というものが当然あるだろう。その常識的な水準からみての「貧困」である。その意味で、貧困者はネットカフェ難民や適切な教育を家計上受けられない若者たち、生活ギリギリの年金生活者たちも入るだろう。国保料を納められず、病院に行くのを我慢して生きる人たち、ましてや年金保険料など論外、などという人たちも、それが生活の常態ならば、首相が「日本はGDPが世界で第2位」と胸を張る国では「先進国の貧困問題」というしかない。

 実は日本はOECDの調査で貧困率が第4位の国である。(1位メキシコ、2位トルコ、3位アメリカ、5位は韓国)。数字そのものはある程度データ抽出の条件にもよるし、相対的な部分もあり、かつこのような調査もそれほど昔からのものではないとのことだが、このようなデータがあること自体一般に認知されているという話は聞かない。

 また、「貧困調査」の問題もある。日本も戦後、何もかもを失ってから高度成長に入るまでは貧困調査をやっていた。しかし、高度成長から安定成長、バブル期という流れの中、ある時点で政府は貧困調査をやめてしまった。同時に、それゆえか貧困は日本では「無いもの」とされてしまった。そのために、社会にとってどこが「貧困ライン」で、「低所得者層とは誰か?」という基準が分からなくなってしまった。今後はいろいろなデーターを活用していかなければならない、でないと政策を施行する方針を立てられなくなってしまう、と教授は言う。

 確かに生活保護基準が貧困ラインという一つの線引きにはなる。また、低所得者を「非課税世帯」から推し量るということもある。しかしそこまでいかなくとも、貧困というべきボーダーライン層がある。
 貧困層はいろいろなものを引き連れていく。それはまず、就業機会を奪われる、という決定的な社会関係からの排除である。例えば派遣村に来るような人にとって、住居の不定は就職を得る時点での最初の大きなハードルである。また、基礎的資産がなければアパートに入居できず、悪循環すると日雇い派遣の状態から抜け出せない。そのような人たちは往々にして「ボイスレス、パワー・レス」である。昔は”無辜の民”と呼ばれた人たちである。すなわち、社会の他者から働けばいいのに、と上から目線で云われても声をあげられない。権利を主張できない。同時に社会の側は「上から目線」から往々にしてそのような立場の人を非難したり、軽蔑したりする。そのような思考の背後には抜きがたい自己責任論があるかもしれない。
 湯浅誠氏がいうように、本人も自己責任を内面化するから、自己評価の著しい低下と社会からの撤退、という極北に行き着く。

 この傾向、つまり貧しいということに対する本人の「恥」の意識と、社会の差別意識との並立は日本に固有の傾向だろうか?という問題設定はどうやら「YES」という答えとしてあり得ることのようだ。深層心理的にはもっと根深い何かがあるかもしれないけど、とりあえず、それは普通、貧困となる原因を突き詰めていくという風土ではなく、かつ、社会構造の問題ととらえることができないわれわれ一般庶民の意識のありようがあるのではないか?と僕には思えた。

 また、貧困の撲滅のための社会運動がなぜ日本では起きず、起きてこなかったのか。日本は社会運動や労働運動をする人々にも、実はどこかで貧困は本人の原因だと思う傾向があった。まして労働運動の中では労働市場に入ってこれない人は運動を共にする仲間と思ってこなかった。
(これがまさに「貧困は見えない」ということでもあろう)。

 *続きます。

by ripit-5 | 2009-02-08 11:48 | 格差・貧困 & 中流崩壊?